どうでもいいんだろうなあ、という話
（創作です）
耳から凍り付くような風の強い冬、同僚とよったコンビニ。
私のおでんは、はんぺんと、玉こんと、さつまあげ。
「どういうチョイスよ？」という笑う同僚を尻目に、お味噌をいただいて出汁にとかす。
ねえ先生。
私の一番は、いまだにこれなんだよね。
＊
中学三年生の冬。
進路やら塾やら競争やら模試やらニキビやら体型やら誰もが悩むトラブルに、律儀に真っ正面から傷ついていった結果、塾どころか学校にも行けなくなり。
かといって中途半端に頑張ってきた勉強を受験目前で投げ出すには惜しく、家庭教師を呼ぶことになった。
はっきり言って誰とも会いたくなかったが、みんなが受験へ向かって突き進む大きな流れから外れるのもなんだか怖かった。一応、NPOだかの「そういう子向け」の支援とかで、気を遣って接してくれるとのことだったが、『他人に気を遣われている』という状況もプレッシャーである今の私としては不安しかなかった。ただただ早く楽になりたい。それしかなかった。
チャイムが鳴る。
胃の奥がきゅっと締まる。
母の出迎える声。リビングで待つ私。今すぐ隠れたい。反射的にいすを立とうとしたが、その前にドアが開いた。
「こんにちは。華ちゃん、だよね？」
まるまるニコニコとした男性だった。正直、女性がくるものとばかり思っていたのでだいぶ動揺したが、なんだかぽかぽかした雰囲気の人だ。なんだか立つ気力を失って、ぼうっと先生のほうを眺めた。
まず座って、今の状況などを簡単に話す。といっても、ほとんど母が話しているので私はなんとなくうつむいているだけだ。先生はメモを取りながら母の話を聞き、母が話し終えるとぱたりとメモを閉じた。
そして私を見てこう言った。
「ちょっと二人で外を歩こうか。」
＊
母は大いに驚き、怪訝そうに先生をにらんだが、家から見える範囲のコンビニまで歩くだけだという先生の言葉に、ますます困惑したようだった。私は出たいと言った。何をしても苦しいだけだから、何か変化が欲しかったんだと思う。
「僕ね、昔は高校の先生をやってたんだ」
外を出て少し歩きながら、先生はにこにこ話し出した。太ってるから笑っているように見えるだけかもしれないと、その時に気づいた。
「高校はね、中学よりずっと自由になる。生徒自身であれこれやることも増えるし、個性みたいなものも出るようになる。僕は、そうやってみんなが自由に、のびのびと好きなことが出来るようお手伝いをしたくて、先生になったんだ」
一歩一歩、大きな身体が横にゆれる。まっすぐ前を向いたまま。
「でもね、先生って、生徒が羽目を外しすぎないように、叱らないといけない。タバコとか身体に悪くて他人に迷惑をかけるのは当然だけど、髪の色とか長さとか制服の着方とか、そういう些細な、言ってしまえばどうでもいいことでとやかく言わないといけないのは嫌いだった」
コンビニまで、あと数歩。そのときはじめて、先生は私のほうを向いた。
「おでん、食べようか。好きなの選んでいいよ」
＊
おでん、といっても、なにを食べていいかわからない。コンビニのおでんなんて食べたことなかった。そう伝えると、じゃあ僕の好きな物適当に頼むね、とレジへ向かった。
いすに座って差し出された小さいサイズのカップは、全体を覆うように真っ白なドームが占拠していた。
なんですか、ときくと、先生は「はんぺん。おいしいよ。」といって自分の器の大きなドームを半分にして一口で食べてしまった。あんまりおいしそうに食べるから、なんだかとってもステキなもののように思えて、はしでピザみたいに少し切って頬張った。口に入れるとしゅわしゅわと出汁の香りとお魚の味が広がっておもしろい。ドームがひらけてなかから覗いた串の先には玉こんにゃくがついていた。お祭りの屋台でしか食べたことなかったけど、屋台よりもずっと味がしみていておいしい。さらに下からはさつまあげが覗いている。ぷりぷりした食感にお野菜の風味もある。あまり食卓にのぼらない食材の味にどきどきした。
「あとこれね」
先生は最後に薬味の味噌を出汁に溶かした。途中までそのままいただいてから、最後に味噌を一気に溶かすのが先生流だそう。
味噌汁みたいになるのかと思いきや、独特の甘みが漂って思わずごくごく飲んでしまう。
先生が豪快にずぞぞぞぞーっと汁をすするのをみてなんだか笑ってしまった。
帰り道、お腹いっぱいだというと先生は「しまった、夕飯食べられるかな？」と焦っていた。
「僕にとっては2分目くらいの量だから」
めっちゃ食いますやん、と返すと「見ての通り」と言って笑い、その後は何も話さなかった。
＊
先生とはあれ以来会ってない。その後は女性の家庭教師が来て、勉強を教えてくれた。名前も覚えてない。ほんとに10分程度のささいな散歩だった。でも当時の私にとって「先生も校則とかどうでもいいと思ってるんだなあ」と知れたことはとても大きかった。今となっては感情的に怒られることが多く、いまでも律儀に正面から傷ついたりするけれど、このおでんを食べるときはちょっとだけ、どうでもいいんだろうなあ、と思えるのだ。
ダルライザーよかったぞレポ
一体はゆるキャラらしいまんぐりとしたフォルムの白い犬、しらかわん。
もう一体はかわいらしい美少女の小峰シロ。
そして最後の一体、だるまを模した真っ赤なヒーロー、ダルライザーだ。
まあようはダルライザーを主役としたヒーロー映画である、ライズ-DHARURISER THE MOVIE-を観てきたのでその感想を書いてみようと思っただけである。ネタバレまみれになるが、少しでも興味を持っていただけたらぜひ現地で鑑賞していただきたい。上映は8月20日までです。
正直、Twitterで評判を聞いたくらいの軽い気持ちで来たので、会場に到着して驚いた。
まず会場が白河信用金庫。の、3階。なかなか大きなところなのだが、その会場がすごかった。
まず、スーツ売ってる。
このスーツ、敵であるダイスのメンバーのコスチュームなのだが、
エレベーターから降りてすぐ視界にはいる位置に、仮面のスーツマネキンと整然と並べられたシャツ、スーツ一式。
普通に買えてしまう。
この時点で普通にときめいてしまう。
しかし驚いたことにそれだけではなかった。
ラフなかっこをしておられるスタッフさん。
あの……主役では？
主役の俳優さんでは？
あまりにも平然と、自然に、にこやかにたたずんでおられるので反応できなかったが、主役、普通におる。
市民の方々もノーリアクション。
人違いかもしれん……いやいや……と思いつつ壁に貼られてるポスターやら小道具やら見てましたけれども。
どうやら物販のスタッフさんなど出演者の方がやっているようで、私が行った日はTVレポーター役、子役の母親役、警備員役の方がいました。他にもいたかもしれないけどわからなかった……
そんなこんなで、会場入り。上映時間２時間半の入れ替わり制ってこのとき知りましたわ。
そして扉を開け、チケットを切るスタッフのそばを(主役……？)(主役では……？)と思いながら通りすぎる(主役でした)
さて、ここからネタバレです。
まずひとつ。
メインキャラクター、サブキャラクターたちがめちゃくちゃ良い。
これは後述します。
そしてもうひとつ。
長い。
後半がかなり良い分、前半の長さがどうしても気になってしまう。前半も必要な過程であるとわかるからこそ、難しいものとは思うが、休憩なし２時間半はどうしてもキツい。
なによりもリピーターが難しいんじゃないだろうか。正直後半は何回でもみたいが、前半もう一度同じものを観るとなるとちょっと躊躇ってしまう。
いきなり文句的なことを言って申し訳ないが、けっこう問題だと思うんですよね。ストーリーの主軸を残しつつ90分くらいに出来れば理想だと思います。
前半はダルライザーが出来るまで、といった過程に１時間以上かかっている。
俳優を夢見て上京したものの、妊娠した妻を支えられるだけの収入には及ばず、ホテルを幾多も経営する実家に帰郷。が、親とそりが合わず自力で警備員の仕事を持ってくる。
この時点での見所
･なぜか実家までついてきてくれるカメラマンの親友、マナブ(ノリ軽め)
めんどいから帰る！と言っておきながら親と喧嘩して飛び出した主人公、アキヒロに対し「どうせすぐ喧嘩して出てくると思って☆」と車をスタンバイしておく。し、なにかとついてくる。仕事は？
･警備員の同僚メガネ、湯本さん(ノリ軽め)
握手のノリがかなりウザいが、「バカだし、褒められたことなんかねえけど、でもこの白河が良いまちであってほしい、そのためになんかしたいって思うんす」という一言にグッと来たひとも多いのでは。
この台詞で(推せる…)と思った方は後半気を付けて欲しい。
私は推せると思いました。
こんな愉快なメンバー、及び出来が良すぎる嫁に完璧すぎる励ましとサポートをもらい、「ご当地キャラクター」を考えるコンテストに挑戦することになる。
テーマはヒーロー。
仕事と平行しながら白河ならではのヒーローということで「何度転んでも立ち上がる」「達磨のヒーロー……！」
完成です。
しかしこのあたりから日常に異変を感じ始める。まちで流行っているというなんかこう……メディカルチェックが出来るボディーシール的なSFチックなサムシング(うろ)
コンテスト挑戦前あたりに湯本からアキヒロももらってつけてたのだが、これが見せる幻影からアキヒロはあるメッセージを受け取っていた。
それは「ハル」を名乗る謎の女性からの、まちの危機を知らせるメッセージだった。
(このハルさんからのメッセージ、なぜか前半だけで3、4回あって間延び感があってうろ覚えです)
まあそんな感じで危険を知らせる信号がダルライザー完成あたりでじわじわ出てくる。
さあここで一際フラグがたっていたあいつです。
湯本ーっ！！😭😭😭😭😭😭😭
アホだけど気遣いやでまちを守りたい気持ちが強かった湯本……
そんな「まちを守りたい」市民の気持ちにつけこみ暗躍していたのが……
<ダイス>
同僚である湯本の豹変から完全にこれはヤバイのではと気づきつつあるアキヒロ。
後半はダイスとは？そして謎の女性、ハルの正体とは？
といったところで大変盛り上がるので特に感想というか、煽りは要らないと思います。
ぜひ観て楽しんでくれ……
純粋すぎた天才が最愛の人を失い道を誤る展開にピンと来る人には大変おすすめの一品となっております。
ただまあ後半の見所としては
･市民枠のはずなのに演技が上手すぎる旅館若旦那、ダイスNo.1
(ダイス含めて出演者は多数白河市民)
･何いってるか全然わからんがめちゃくちゃかっこいい、武術の師匠
KEYSIという武術であり、発案者も俳優として出演しているフスト･ディエゲスさん。
バッドマンビギンズやミッションインポッシブルⅢにも採用されているすごい武術だそう。
･あまりにも声が良すぎてビビってしまうこと請け合い、秘密を握る世捨て人野田さん
案の定声優もやっておるそうな。山口太郎さんで検索してくれ。
声だけじゃなく役どころも最高。「天才にも非道にもなりきれず、かといって見捨てることもできず密かに研究を続けていた」タイプのダンディ。
･最初から最後までベッタリついてきてくれる親友、マナブ
最終的にSFチックないかつい銃を構えるようになる。三枚目な印象があるわりにめちゃくちゃかっこいいというタイプ。P4では花村が好きという方は絶対好き。
主役はもちろんかっこいいのでぜひ本編で確かめていただきたい。
長くなったわりに主役のこと丸投げやんという感じで申し訳ないが、
普段ヒーローショーなどではお目にかかれない、ダルライザー、及びダイス以外の面子が良すぎるのだ。
これ完全に誤算だったし、見ていて超楽しかった。
脚本読みたすぎるから正直買わせて欲しい……
そんな気持ちで白河出身、Silent Sirenボーカルのすぅちゃんのかわいらしい歌声のエンディングを聞いていた。
そしてエンディングも終わり、そろそろ退場かと思ったところで。
舞台袖からまさかの主役登場。
(やっぱ主役だったんだ！？とこのときやっと飲み込めました)
どうやら毎回、終わる頃に挨拶してくださっているようだ。人口が減る一方の地方都市で、「何度転んでも立ち上がる、強い子どもたちを育てる」そうすることでまちの未来に繋げるという熱い思いが伝わってきた。
実際、白河市は子育て支援や高校生以下の子どもたちの支援にかなり力をいれているし、生涯学習やまちの景観にもかなり気合いが入っている。
こういう人たちが、これからのまちでは必要なんだ、こういう人たちがいるまちは強いんだ、っていうことがよくわかった。
まあそんな感慨に耽りつつ、出口でパンフレットを購入すると、サインなども気軽にお申し付けくださいとのこと。
言ったら普通にくれました。(やっぱり主役じゃないか)
まあそんなこんなで映画ダルライザーをまとめると
･ストーリーがかなり面白い！
･役者にめちゃくちゃ普通に会える！
･最悪の場合もうみれないかもしれないから今観て！
って感じです。
役者さんがいつもいらっしゃるかどうかは私にはわかんないので、会いたいかたは公式に問い合わせるといいかもです。
無責任ですまねえ。
とりあえず思いの外長くなったのでここで失礼します。
ダルライザーはいいぞ。
